
世帯動向は5年に1度行われる「国勢調査」や毎年(毎月)公表される「住民基本台帳人口移動報告」など、総務省から公表される公的なデータがあります。
また、厚生労働省でも保険や医療福祉の政策立案のために「国民生活基礎調査」が1986年から行われており、その中の調査主項目に世帯数や世帯構成があります。その国民生活基礎調査の最新版(2024年)が厚生労働省から7月に公表されました。
今回は最新の国民生活基礎調査の中から、世帯数と世帯構成人員とそこから見える住宅需要について解説します。
(本文中のデータは全て厚生労働省の「国民生活基礎調査」より)
国民生活基礎調査とは
厚生労働省が行う国民生活基礎調査は、保健、医療、福祉、年金、所得など国民生活の基礎的事項を調査し、政策立案に使われます。(厚生労働省のホームページより)この調査は、国勢調査などと同じく、国が定める基幹統計の位置付けです。
国民生活基礎調査は1986年(昭和61年)を初年として、3年ごとに大規模な調査を実施され、その間の年は項目を絞った調査が実施されますが、今回取り上げる2024年(令和6年)調査は中間年となり、世帯の基本的事項と所得について調査が行われました。国民生活基礎調査は都道府県別のデータはなく、日本国全体の傾向をつかむためだからでしょう。(調査実施日は世帯については2024年6月6日、2023年分所得については2024年7月11日)
世帯数と世帯構成の状況
本調査によれば、世帯数は5482万5千世帯で1986年の調査開始以来過去最高となりました。また平均世帯構成人員は2.20人と過去最低となり、我が国は少人数世帯が増えている状況が伺えます。世帯構成別にみると最も多いのは単独世帯で1899万5千世帯、全世帯の34.6%、次いで夫婦のみの世帯が1354万4千世帯で24.7%、次に夫婦と未婚の子供世帯が1321万8千世帯で24.1%となっています。
長く夫婦と未婚の子供世帯が最も多かったのですが、令和元年(2019年)以降は単独世帯が最も多くなっています。また日本全体でみると、離婚数はそれほど増えておらず、ここ10年くらいをみるとひとり親と未婚の子供世帯は、実数は微増傾向にあるものの全体の7%前後で推移しています。そして、1世帯当たりの平均世帯人心は低下が続き、2.20人となっています。この傾向は大都市部だけでなく、例えば出生率が高いとされる沖縄県においても同様の傾向で、地方都市でも構成人員は減少傾向にあります。
65歳以上の高齢者世帯の状況
65歳以上の高齢者がいる世帯は2760万4千世帯あり全体の50.3%と半数を超えています。このうち903万1千世帯は単独世帯となっており、これは高齢者世帯の52.5%となります。高齢者単独世帯は2010年に初めて500万世帯を超え、ここ15年で約1.8倍と急増していますが、その要因としては死別によるものが多いと考えられますが、加えて生涯未婚率が上昇していることも大きな要因と思われます。
未婚の方の多くは賃貸住宅に住む傾向にあることから、高齢者単独世帯の中でも未婚者が増加していることは今後も引き続き賃貸住宅需要の押し上げにつながるものと思われます。
4LDKのマンションが減っている理由
その一方で児童(18歳未満の子供)がいる世帯は全世帯の16.6%しかなく、逆にいえば全世帯の85%近くは児童のいない世帯となっています。少子化、高齢化が急速に進んでいる状況がわかります。
このような世帯構成員の減少により、全国的に4LDKタイプのマンションの新規供給は極めて少なく、加えて都市部では価格高騰から広さの制限もあり3LDKの部屋も減少し、2LDKが増える傾向にあるのも納得できます。
児童のいる世帯と急増する共働き世帯
児童のいる世帯のうち母が仕事をしている世帯の割合は80.9%となっており、20年前の2004年の時点では56.7%でしたので、近年急速に出産後も働く女性(母親)が増えたことがわかります。いわゆる専業主婦の割合が急速に減っているということになります。これは近年の大きな特徴です。
また、児童のいる世帯の平均児童数(つまり子供の数の平均)は1.68人で、近年「子供の数は2人弱」という水準が続いています。冒頭に述べた別の人口・世帯調査でも1.7前後の数字が多く、2025年の特殊合計出生率は1.15となっていますが、これは15〜49歳の女性の平均であり、世帯を持つ夫婦の間に生まれる子供の数は2人弱という状況が続いています。つまり、少子化傾向は未婚化傾向によるものということが言えそうです。
世帯動向と今後の住宅需要
一般的に住宅には世帯単位で住みますので、世帯の動向は住宅需要を決める大きな要因となります。国立社会保障・人口問題研究所の将来人口・世帯推計によれば、今後の我が国は人口減少傾向に拍車がかかりますが、世帯数はまだ増える見通しです。世帯類型のうち単独世帯は大きく増え、さらに言えば高齢者単独世帯が大きく増える傾向にあります。こうした傾向を先読みした住宅建築が今後求められることでしょう。

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイト:http://yoshizakiseiji.com/